ということで、数学的ネタとしてはとってもおもしろい題材なのでちょっと書いてみたいと思います。なお、私は基本的には工学側なので理学側にはちょっと甘めです。ですが、こういう話をどうやって中学生や高校生に教えるのか?というところで考えさせられるものがあるので私も書いてみたいと思います。証明の説明を先に書いているのでblog上の問題の私なりの回答は後半部です。
まず、これを数学で「証明」するならどうなる?
中学生に教える前にまずはある程度厳密に証明してみましょう。ちなみにこの証明ですが、本にはとてもよく載っています。といっても中学生の教科書、とかではなく実は数理論理に関する本で命題や述語論理の説明をする時に例としてはもってこいになるからです。というわけで、これを述語論理の形で何をどう言うのか書いてみましょう。私も専門家ではないので微妙な間違いがあるかもしれませんが・・・。
論理記号を使って述語論理の形で書いてみる
論理記号を使ってこの証明の形を書いてみましょう。
一応言葉にすると「偶数の集合に属している任意の数xおよびyがあるならば、その和(x+y)も偶数の集合に属する」というものです。たぶんこの書き方の方が厳密性が高いはずです。偶数の集合を表す時に「偶数とは2で割り切れる整数=整数を2倍したものである」を使っています。この段階ではxおよびyをどのような形で書くか、ということには触れていません。あくまで「偶数の集合に属している」だけです。
あと、「偶数と偶数の和は偶数」に隠れている量化子を正しく書かないと命題がおかしくなってしまいます。これは「任意の偶数とそれとは関係の無いの任意の偶数の和」についてなのでそのように書かないと間違いですね。
で、証明してみる
以降は必要に応じて論理記号は使って書いてみます。日本語の証明のレベルが微妙なのは気のせいにしてください。
- xおよびyは偶数の集合に属しているので整数nおよびmを用いてx=2n、y=2mとおくことができる。
(意味は「ある整数n,mが存在し、x=2n、y=2mとできる」)
- このとき、xとyの和(x+y)はnおよびmを用いると(2n+2m) = 2(n+m)である。
- nおよびmが整数であるため、その和n+mは整数である。よって2(n+m)は偶数である。
()
- 以上より任意の偶数x,yの和(x+y)は偶数である。
となります。
注意点としては、「xが偶数である」はまず「xが偶数の集合に属している」から始まり、「xを表すためにある数nが存在してx=2nである」とつながります。そのため、ここで出てくるnはあくまでただの記号です。プログラムで言うところの変数でしかないので誰もnという文字を使わなければならないとは一言も言っていません。慣例として整数を表す時はiからnを使う、という性質によるものです。そして述語論理の形でも書きましたとおり、「xとyは関係が無い」ことから、同じnを用いて表すことはできません。そのため、xを表す時に使ったnとは別の数が必要になり、mが登場する、という理屈になります。
それ以降の証明は難しいことはないとおもいます。最後に「偶数である」を言う時に正確には「偶数の集合に属する」と言うべきなので、その形をしているよね?よね?と言わないと不正確となってしまいます。その辺が厳密性を増していくと難しくなっていく部分でしょうか。
で、ここから中学生向けに証明を教える時のことを考える
やっとblogの意味に戻ってきました。はい。
中学生レベルで証明を書く場合、まあ簡略化されたものを使うことになります。証明の形としては
- 偶数の和を考えるので二つの数が必要。その偶数を仮にxとyと置く。
- 偶数は2の倍数だからnを使うと2nと書けるのでx = 2nとする。
- yの方も同様にする。ただし2nはxで使っているので2nと書くと同じ数になってしまうためmに登場してもらいy = 2mとする。
- その和は2n + 2m = 2(n + m)で2の倍数になっているため偶数の和は偶数である。
ですか。問題点になりそうなのは二つ出てきている数をどうやって置きかえるか?ということですね。関連がない数二つを足すのでそれぞれに関連がない文字で置かないといけない、というのが鍵でしょうか。今回の場合は「mに登場してもらい」という部分で表しています。
で、証明が間違っていることを認識させる場合はその証明で証明できていない例を出すと間違いに気がつきやすいとおもいます。で、間違えたポイントからその子が分からないポイントまで順序を進めるあるいは巻き戻していって「自分がどのポイントで証明の構築を間違えたのか」を理解させるのが良いのではないでしょうか。今回、blogであがっている例であれば
- mと一つしか文字が出てきていないので仮に4+6を考える
- 「2つの偶数」なので、4をmで表すとm=2として2mと書ける。
- だとするともう片方の6は2mではない。でも6は偶数。これはどこから生まれた間違いなのか?
- これは「偶数+偶数」を考える時に「偶数」が同じものだと思い込んでしまった(言葉としては同じものなので国語的にはイコールだが、数学的には概念なので2つ以上登場すると関係しない二つの数がそれぞれ偶数、という意味として取らないといけない。「関係する」場合は別だが)
- だとするなら、mとは関係の無い別の文字で置かないと「偶数+偶数」を表すことができない。(数学的には「任意の(中学生に言うなら「何でもいい、適当に取ってきた」)」が隠れていることを意識させる)
- だから、この場合はもう一つnという整数を別に用意する必要がある。これを使ってもう一つの偶数を2nと表す。
- これで4+6はmを2として4を2m、nを3として6を2nとすれば「偶数+偶数」を表すことができる。
- この場合でも4+4ならmとnをどちらも2にすれば表すことができる。(mとnは「関係しない」だけで「同じになってはいけない」とは言っていない)
- 証明としては、mを整数とする時2mは偶数、というところまでは偶数の説明としてあっている。
という感じでしょうか。5~8はblog上で説明している順序と同じですが、その前にある1~4で例示および国語的な思い込みを直すという順序を入れることで理解ができるのでは?と思います。教育系はやっていないのでそちらにも聞かないとだめなのが痛いですか。
というわけで、blogにあった問題の私の回答は
「偶数と偶数の和は偶数である」として「2m+2mを用いるのは間違いだ」という説明は正しいか、間違いか」
に関しては「間違いではないがそれだけだと中学生への説明としては言葉足らずとなってしまう」が私の回答です。理由はこの上で示したものとなります。
数学では個人的には例を考えることが理解の近道だと思う
上位になればなるほど抽象的な概念を扱うのでどうしても例示がしづらくなるのがむずかしいところです。まあ高校までの数学であれば例を考えるのは難しくないですし、いくつかの例で「その例がなぜ当てはまらないのか?」を理解させていくのが子供に教える時に良いのではないでしょうか。自分が数学で新しい概念を考える時はいったん例にできるものがないか?を考えて、その例の上で概念がどういう風に動かされるのか?を考えていますし。さすがに抽象度が高くなるといったん例示をあきらめて定義を覚えまくって定理の出し方などを見るがままの状態になるのは致し方ないところでしょうか。それでもあるところまで行ければ例示ができるはずですのでそこで改めて理解しなおせば行けるような気がします。
特に証明はその傾向が強いのでは?と思います。(問題として出されるような証明であれば)間違いのある証明だといくつかの例ではじかれてしまうので見やすいですし、間違えた理由が「その例に対して説明できなかったこと」なのでそこがクリアできれば正しい証明に近づける(正しい証明になる、わけではないのが・・・)というところですか。ただ、数学の証明は基本骨格が分からないと書き出しすらできない、というところで微妙な暗記でもあるんですよね・・・。
ちなみにどこかで見た記憶があるのでこちらでも書いておきますが、「中学、高校レベルの証明であれば順方向からの証明に行き詰まった場合、逆方向(つまり証明される事柄)から分かることを列挙してつなげると証明になる」ということができるようです。特に図形証明でこれが起こることが多いようです。まあ、あくまで試験用ですのでこんなことを大学レベルでやったら何を言われるのでしょうかね。
論理記号の使い方が間違ってるので、素直に日本語だけで書いたほうがいいんじゃないですかね…。
変に⇒入ってるし、量化したりしなかったりしてるし、よくわからない事になっています。
ちゃんと記号で書くなら、以下のようになります。
・x,y∈2Z ⇒ x+y∈2Z
または
・∀x,y∈2Z: x+y∈2Z
束縛されていない自由変数は、通常、全称量化されていると考えます。
ここでは
2Z={n∈Z|∃m∈Z: n=2m}={2n|n∈Z}
の意味です。
コメントありがとうございます。この記事は論理記号に対して覚え始めた初期に書いたものなのでそのあたりがまずいまま放置されていたようですね…。修正いたしました。