技術ネタ(スマホネタ)が続いたので小休止として数学の遊びを入れたいと思います。音楽とちょっとからめたネタです。音楽と数学だとよくあるのは純正律や平均律など音の周波数の話がよく出てきますが今回は音階そのものが主役です。一応小学生~大学生まで幅広くいけるような数学の話になっています。記事が進むにつれて理論を説明するためにレベルが上がっていきますのでご注意を。中間はただの考え方です。最後にクイズを応用した遊び問題を入れていますのでこれが答えられると面白いと思います。
はじめはちょっとしたクイズから
というわけで計算規則を見つけるタイプのクイズです。
以下のような計算規則が成り立っているとする。
- レ + ファ = ソ
- ファ + ソ = ド
- ラ – ファ = ミ
このとき、「レ + ミ + ファ」は何になるでしょうか?
ちなみに題名で「音階」と言ってしまっているのでこれが音階であることは意識できると思いますがクイズとして出す場合はヒントか何かで出した方がよいと思います。今回の場合は式を3つ出すことで音階が絡んでいることを意識させています。(実は解答するには一つの式だけでOK)また、音階であれば成り立つのでドレミ(イタリア式表記)でなくても、日本式表記(イロハニホヘト)や英・米式表記(ABCDEFG)にしても意味は全く同じです。日本式表記にすると…
以下のような計算規則が成り立っているとする。
- ニ + ヘ = ト
- ヘ + ト = ハ
- イ – ヘ = ホ
このとき、「ニ + ホ + ヘ」は何になるでしょうか?
…うん、なじみがなければさっぱり訳がわからない問題のできあがりですね。まさにクイズにふさわしいです。
解答と解説は?
こんな感じです。
解答:シ (日本式表記の場合はロ)
[解説]
音階に関する足し算や引き算であることがわかればどの音階が基準になっているかを考えることで出せる。なお、音階であることがつかめないとき解答の「シ」は問題文中に一つも現れていないものなので数学だけで考えたときには答えを出せないことに注意する。考え方としては適当に基準音を決めてそこからどれだけ離れているかを数字にして合っているかどうかを調べていってもよい(小学生向け)が、基準音を仮定してそこからの音階差を考えてみる。たとえば「ラ」が基準だと仮定して12音階で考えると
ラ = x、シ = x+2、ド = x+3、レ = x+5、ミ = x+7、ファ = x+8、ソ = x+10
なので、レ + ファ = ソ を考えると (x+5) + (x+8) = (x+10) より x=-3となる。(なお、この解答を求めるためには計算しなくてもよいがこの計算における基準音はドが(-3 + 3) = 0となることためドで確定する。(他の式でも試してみるとよい))
最後にレ + ミ + ファを考えると (x+5) + (x+7) + (x+8) = 3x+20 = x + (2x+20) = x+14 = (x+2) + 12 となり、音階なので音階名だけならループすることを考えると答えはシとなる。なお、基準音をドとして計算するのであればレ + ミ + ファ = 2 + 4 + 5 = 11となるためシとなり答えは一致する。
ちょっとループに関してわかりづらい面がありますが音楽理論なんかで音階がループすることを円に12個の音階を書いて表記する、といったことがよくとられているのでそちらを見て考えてもよいと思います。
で、これが数学と何の関係があるのか?
オクターブが違う音を別の音として表記する方法もありますが、今回はオクターブ違いの音に関しては同じと見なすと、1オクターブを12個の音階に分割して…という話は聞いたことがあると思います。数学的にはオクターブの部分を別に分けると音階は12進法で表されているという考え方ができるわけです。時計における時間の考え方と同じですね。音楽理論でもよく出てくる図だと思います。今回はそれをちょっと使った問題…のように思えるかもしれませんがここから大学の数学を絡めていきます。
Z/12Zと音階で同型写像を考えることができる
題名にZ/12Zと書きましたが、正確にはと書きます。これは何か?というと整数環
に対してその単項イデアル
の剰余環を考えたもので中学生にもわかるように書くなら「整数を12で割ったあまりを考えたもの」というところです。以降この記事ではZ/12Zと表記します。
で、上記の問題での演算はいったん音階差に直して…とやっていますが、環論で考えるとこれは音階をドを基準とするようにこの剰余環との同型写像fc-1(cは英・米式表記でのドの意味)を考えて剰余環上で演算を行い逆写像fcを考える、という作業を行っていると考えることができるわけです。もちろん、これは同型写像なので準同形写像となり加法および乗法はばらして行うことができることを使っています。ちなみにこの同型写像ですが、各基準音によってそれぞれ異なる写像となります。実はこれがこの後の音楽理論と数学との橋渡しとなる話になります。
音階をZ/12Zと同一視することの利点は音階の移動に関して正負の考えに整合性が生まれるからです。音階上では1音下げることは11音あげることは異なりますがオクターブ違いを除くと同じと見なせます。これがZ/12Zではとなる、ということに変換できるからで、数学ができるなら円を描いて12音階を並べるよりわかる人が居るのでは?と思う位の考えやすさになると思っています。
和音におけるトニック・ドミナント・サブドミナントなどはZ/12Z上での集合と同一視できる
音の転回を無視して考える場合、という条件付きですけれどもね。たとえばCMajorスケールにおけるトニック(I)はC、E、Gですが、これをfcで引き戻し(fc-1で写像をとり)Z/12Zの要素と考えると{0,4,7}という集合に変わります。この後にFMajorスケールにおけるトニックは?というと写像ffを考えてトニックの要素の集合を各要素ごとに飛ばすとF、A、Cになり、対応していることが確認できます。同様にドミナント(V7)だと{7,11,14,17} = {7,11,2,5} = {2,5,7,11}、サブドミナント(IV)だと{5,9,12} = {5,9,0} = {0,5,9}が対応します。あとは基準音の写像を考えれば和音構成をいろいろと考えることができる、という理屈となります。
移調に関してはZ/12Zが二つ関わってくる
移調を考える場合は音階に関するZ/12Zの対応と調の前後関係に関するZ/12Zの対応が関わってきます。調の前後関係だと…-F-C-G-…という感じでハ長調から一つ上の調に移調するとト長調になる、という関係で行います。たとえばハ長調から5つ下の調は変ニ長調ですが、ハ長調から7つ上の調は嬰ハ長調となります。これを異名同音調と呼ぶようですが、これもZ/12Zでの演算を考えるとですのでちょうど対応しているということがわかります。調の移動についても調の同型写像を考えて移動したい数だけZ/12Z上で演算を行い逆写像を考えるとOKなのでここでも同じような考えが出てきますね。
音の転回と組み合わせると自動作曲が考えられる?
音階とZ/12Zの同型写像を考えるとオクターブ違いの音を同一視することになるので音の転回を考えることができない、というのが弱点です。理論を考える上では音の転回も組み合わせないと和音における基準音の話がおかしくなってしまうが残念です。あとはこれらの理論を組み合わせていけば曲中での移調に関しても音階による写像と曲調による写像をうまく考えることで可能といったことや和音の理論を数学上で考えて反映させることで作曲につながるのではないか?と個人的には思っています。というかボーカル曲をピアノでちょっとだけ引こうと思えば左手で和音、右手で主旋律をやればそれっぽく聞こえるのですがそのときに見える法則からこれがうまくいきそうな気がしています。
最後にZ/12Zが環であることを使った問題
音階の場合は加算や減算は音の移動に関わってくるので意味があるのですが乗算は何を意味しているのかさっぱりわからないですね。それをクイズにしてみます。なお、Z/12Zは環であり体ではない(12が素数ではないため12Zが素イデアルではなく、よって極大イデアルでもないため)ので除算は12に対して互いに素となる数にしか適応できないためちょっと問題に制限が出ます。また、音階をうまく選ばないと#とかbとかの記号が出てきてクイズの大ヒントになってしまうのでそれをいかに避けるか?も要点となります。
以下のような計算規則が成り立っているとする。
- ド × ソ = ミ
- ラ × ラ = ファ
- レ × シ = レ
このとき、「レ × ミ × ファ」は何になるでしょうか?
…問題を作るのに苦労をしました。というのも「本当に解答が一つしかないのか?」を確認するためにとある資料を作成しないと訳がわからなくなってしまったからです。そのため、答えを求める手順が正しければ解答は一つです。複数の解答が出てくる、ということはありません。ちなみに和でやったような基準音を仮定して、という方法をとろうとすると今回の場合は乗算であることとZ/12Zが体ではなく乗算においては零因子を持つためそう簡単な話ではなくなりますので注意してください。ちなみに解答がわかった人に追加で問題を出すなら「この3つの式で答えを出すときに不要な式はありますか?あるならどれになりますか?」がありますね。
答えに関してはコメント欄に「答えの記事希望」など書いていただければ記事化を考えます。コメント欄自体に返すorこの記事に追記するかもしれませんが…。
という音階と数学の話
でした。純正律と平均律の話は笛を作るとかするときに使うので小学生~中学生にちょっと原理を説明して工作にすると興味を持ってもらえると思いますが今回の話はそういうものではないので12進数の話の時にちょっとできればいいかな~程度の問題となってしまうのがなんともいえないですね。あと和音と数学を結びつける考え方ではあると思っていますがどうなのでしょうか。